3-3-3. 在庫の不正流用
私はX社の営業担当をしている。X社のメインのビジネスは親会社の機械設備及び部品を輸入し、インド企業に販売している。部品によっては小さくても高額なものもある。
ある日、顧客から3カ月前に買った機械設備が故障したとクレームがあり、急いで新しい部品をもって修理にいかざるを得なくなった。倉庫に行って部品を取り出し、そのまま何の記録もせず部品を持ち出した。顧客への道中、
「何の記録もしなくていいのかなぁ」
と不安になりつつ、逆に簡単に部品を持ち出せることに気づいてしまった。ということは部品を持ち出し、ローカルマーケットで売ればお小遣い稼ぎになるぞ。
その後、定期的に見つからない程度に部品を持ち出し、お小遣い稼ぎをした。X社は年に一度、在庫棚卸をしているが、持ち出した在庫に関しては自らが数量を数えるようにし、数量の差異が発生しないように報告した。
もし他の従業員が棚卸をし、数量差異が発覚した場合、
「顧客からのクレームがあって緊急でパーツを持ち出さざるを得なかった。」
と答えれば問題はなかろう。日本人駐在員は棚卸で発見された差異原因を事細かくチェックはしていないからだ。
コンサルタントの見解
インドで生活していると知らないうちに物がなくなっている。特にお手伝いさんを雇い、自分が仕事をしている間に掃除洗濯等の家事を任せている人ならよくあることだろう。しかもなくなって直ぐには気付かず、ある時ふと気付く。
「あれ?なくなっているぞ」と。
私は出張でホテルに泊まることが多い。基本的に洗濯が嫌いな私は洗濯物を溜め、出張時に宿泊するホテルに大量の洗濯物をだす。洗濯物は朝出して夕方には戻ってきている。大量の洗濯物を出すため、何をどれだけ出したかも覚えていない。そのため出したものがちゃんと戻ってきているか確かめる余地もない。そもそも私が出す洗濯物は靴下、パンツ、Yシャツ、ズボンであり、そんなものは誰も欲しがらないであろうと思っていた。
しかしある時ふと気付いた。洗濯に出したはずのYシャツが見当たらない。ただそもそもそのYシャツを洗濯に出した記憶もあやふやだった。
「もしかしたら自分の部屋に置き忘れたのかも…」
とも思った。次の日の朝、ホテルのフロントデスクに行き
「Yシャツがないようだけど知らないか?」
とインド人ホテルマンに尋ねた。インド人ホテルマンは「確認します」と言ったが、私は急いでいたため
「夕方までに確認しておいてくれれば良いよ」
と言ってホテルを出た。
夕方、インド人ホテルマンが私にこう言った。
「大変申し訳ございません。お客様のYシャツですが見つかりませんでした」
と。しかし私は見逃さなかった。彼が着ているYシャツのカフスに刺繍された私のイニシャルとYシャツが色濃く汗ばんだ彼の腋下を。そして私は一人呟いた。
「Good bye my shirt…」
出入りが著しい物はなくなりやすい。そしてなくなっても直ぐには気付かない事が多い。その性質を使って特に高価で持ち出しやすいものは盗まれやすいだろう。そのため高価で持ち出されやすいものは特に出入りの記録をとり、今現在どれだけあるか分かるような管理をしておくべきだ。
そして棚卸をする時は日常的に在庫を管理している人間ではなく、別の従業員にさせる必要がある。出来れば特に高価で持ち出しやすい在庫は頻繁に棚卸をし、たまに抜き打ちで棚卸をすることが望ましいだろう。あるべき数量と実際の数量に差異が発見された場合には、合理的で納得できる理由が見つかるまで調べ上げる。このような管理を徹底すれば従業員は在庫を不正に持ち出しにくくなり、仮に持ち出されても早期に盗まれたことを発見できるであろう。
私の場合、Yシャツがなくなった事に直ぐ気づいたのだが…そしてふと思う。
「もしかしたらあのインド人ホテルマンは私の使用済みパンツまで装着しているかもしれない。インドなら…あり得る…」
と。今後の同じことが起こらぬよう、インド人ホテルマンのズボンを脱がせ徹底的にチェックするべきであったかもしれない。