3-4-1. 前払費用の不正(その1)

 私は日系企業の経理マネージャーをしている。年収150万ルピーであり、問題なく妻と子供二人を養えている。しかし年収に満足しているかと聞かれると「Yes」とは言えない。もっとお金が欲しい。特に何に使うという目的はないが、とにかくお金が欲しいのだ。あと1ルピーでも、もっとお金が欲しい。

 そして“幸い”にも日本人駐在員は支払手続時に、ほとんど請求書のチェックをしていない。つまり適当な請求書を偽造し、日本人駐在員に「ここにサインしてください」と言えば何の疑いもなくサインする。

 しかし問題はその後だ。日本人駐在員は盲目的に支払のサインをするにもかかわらず、月次損益に関して細かくチェックする。また日本の親会社もチェックしており、損益に異常な増減があると間違いなく質問攻めにあう。

 そこで考え出したのが前払費用を使って異常な増減を隠す方法である。まずはどの費用が隠しやすいか損益計算書をみて検討する。当然毎月金額の大きい費用が一番不正を隠しやすい。

 次に万が一の事を想定し、どのような取引を偽装するか考え、架空の請求書を作成する。最後に支払後、会計処理はひと月で全額費用処理するのではなく、前払費用を使って複数月に均等に費用処理していく。

 この方法では多額の不正は困難だ。複数月に渡って均等に費用処理するにせよ金額が大きければ必ずチェックされる。多少のお小遣い稼ぎ程度にしかならないが、それでもやはりお金が欲しい。

コンサルタントの見解

 まずはお金の支払管理を徹底させて、不正を防止することができるようにするのがベストである。支払管理に関しては現預金の事例を参考にして欲しい。

 支払管理を徹底させても100%不正を防止することは非常に困難である。そのためできるだけ早く不正を発見できる体制を構築するべきである。不正を発見しやすくするための一つとして会計処理の仕方を検討するのは有効であろう。

 前払費用を使って異常な増減を隠す方法は、インド人メイドが日本人駐在員のお米や洗濯洗剤をちょいちょい盗む方法と似ている。単身でインドに駐在員している日本人は家事をインド人メイドに任せているケースが多い。メイドと言っても期待しないで欲しい。日本のメイドカフェにいる“メイド”とはかなりかけ離れている。少なくとも私のメイドはそうだった…。

 メイドは掃除、洗濯、食器洗いをしに日本人駐在員の部屋に来るが、帰る時にお米や洗濯洗剤を少しずつ盗んでいくことがある。少しずつ盗んでいくのが非常に巧妙である。一気にたくさん盗むと日本人は気が付いてしまうが、少しずつ盗んでいけば

「あれ…何か最近お米(又は洗濯洗剤)の減りが早いような気がする」

と思う程度である。もしくは全く盗まれていることに気が付かないであろう。メイドもなかなか“頭が良い”のだ。

 不正をした後、前払費用を使って異常な増減を隠されると同じように非常に気づきにくくなる。そのためできるだけ前払費用処理をせず、どうしても会計基準に従って財務諸表を作成しなければならない時だけ前払費用処理をすればいいのではなかろうか。つまり前払費用を支払った時に全額又はその期の費用全額を費用として処理し、財務諸表を作成する時に会計基準に従って処理をする。その方が不正を容易に発見することが出来るだろう。

 過去、私はメイドにシャンプーをボトルごと盗まれた。メイドに

「シャンプーがないんだけど…」

と聞くと、メイドは「ネズミが食べた」と言った。私のメイドは可愛さもなければ、“脳みそ”もなかったようだ。

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