3-2-0. 売掛金の性質と不正防止の要点

売掛金とは何か

売掛金とは、顧客に対する「ツケ」のようなものであり、一種の貸付金とみなすことができる。例えばあなたが日本食レストランを経営しているとしよう。常連客が店で食事をし、お会計の際に「代金は月末に払うからツケにしておいて」と頼んできた場合、その未収代金が売掛金である。言い換えれば、顧客に対して短期的にお金を貸している状態である。

貸付金との違い

しかし売掛金は通常の貸付金とは異なる性質を持つ。貸付金は一度貸し付ければ、返済が完了するまで金額は基本的に変わらない。契約や借用書を確認すれば残高は容易に把握できる。一方、売掛金は取引のたびに金額が増減する。販売すれば増加し、入金があれば減少する。このやり取りが日常的に繰り返されるため、残高は常に変動するのが特徴だ。

さらに多くの企業では「月末締め・翌月15日払い」といった支払条件を採用している。この場合、月末に請求書を発行し、翌月15日に支払いを受けるが、仮に前月分が入金されても、翌月1日から15日までの販売分は再び売掛金として残る。つまり、売掛金残高は完全にゼロになることは少なく、常に一定の残高が存在する。

認識のずれが生じやすい

製品販売では、出荷と入金のタイミングのずれが顕著になる。例えば3月末に商品を発送して売上を計上したとしても、顧客が実際に商品を受け取ったのが4月初旬であれば、顧客は「4月分の購入」と認識し、支払いを5月15日に行うことがある。結果として3月末時点で自社が計上している売掛金と顧客が認識している未払残高が一致しなくなる。貸付金ではこうしたズレはほぼ発生しないが、売掛金では日常的に起こる現象である。

残高確認の落とし穴

このような特性から顧客への売掛金の残高照合で差が発生したとしても「月をまたいだ取引による差だろう」と安易に判断してしまいがちである。特に取引量が多い企業では、差異を一件ずつ丁寧に確認する時間や人員を確保するのが難しく、結果として曖昧なまま処理されることが多い。

不正の温床となる理由

不正を企む者は、この「残高の不透明さ」と「確認作業の甘さ」に着目する。会計の技術的な話になってしまうが、複式簿記で処理している以上、会社の現預金を個人の預金に資金を移した場合、必ず資産若しくは費用の増加、または負債若しくは収益の減少の調整処理をしなければならない。その調整処理として、架空に売掛金を増加させたケースが実際にあった。そのため売掛金管理は資金繰りに欠かせないが、不正防止にも注意したほうが良いだろう。

管理上の留意点

売掛金管理においては、単に帳簿と相手方残高を突き合わせるだけでは不十分である。差異が発生した場合は、取引日や請求書、出荷記録、入金明細など複数の証憑をもとに原因を特定し、明確に説明できる状態にしておく必要がある。また定期的に第三者部門による残高確認(債権残高のサンプリング確認)を行うことで、不正の抑止効果も期待できる。

売掛金は、日常業務の中では当たり前に存在する勘定科目であるが、その「当たり前」にこそ落とし穴がある。違和感を抱いた時に見過ごさず、事実確認を徹底することが不正防止の第一歩となる。

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