3-1-5. クレジットカード
私はX社でGMとして働いていた。GMとして取引先及びインド政府当局等と会食する機会が多い事を理由に会社名義のクレジットカード使用を日本人駐在員に認めさせた。ただ実際には会食する機会はあまりなく、特に海外出張もない。そのためクレジットカードを仕事で使用することはなかった。
ある時、家族でショッピングモールに行き、日用消耗品及び食料品を買おうとしたところ財布に現金がほとんどなかった。ATMに行って現金を引き出すのも面倒である。困っている時に目についたのが会社名義のクレジットカードだった。当該クレジットカードを個人的な買い物で使用するのに多少抵抗があったが、あとで会社に返金すれば問題ないであろうという理由で当該クレジットカードを使うことにした。後日、クレジットカードの使用明細を入手し、個人的に使用した分に関しては返金した。
しかし別の日に家族と一緒にレストランで食事をした時、同じように当該クレジットカードを使用した。その頃には個人的な買い物で当該クレジットカードを使用することに抵抗すら感じなくなっていた。クレジットカードの使用明細を入手した時、同じように個人的に使用した分の金額を会社へ返金しようと思ったが、どの支払いが取引先との会食で、どの支払いが個人的に使用した金額か区別することが面倒になってきた。そのため家族と食事した分に関しても取引先と会食したことにし、会社へ返金することをしなくなってしまった。
私はGMであったため、直接の部下にあたる経理担当者は支払内容を深くチェックせず、単に接待交際費として会計処理していた。仮にパンや野菜の個人的目的として購入でも、経理担当者は何も指摘せず機械的に会社の費用として会計処理をしていた。もしかしたら経理担当者は「これ個人的に使用したものではないか?」と疑問を持ったかもしれないが、口を挟むような事はしなかった。
数年後、日本から内部監査され、クレジットカードの使用内容をチェックされてしまった。内部監査人からクレジットカードの使用内容を質問され、その回答として「取引先と会食」「インド政府当局と会食」「取引先へのプレゼント」等の言い訳を駆使し、ある程度納得してもらった。そのため個人的に使用した分に関して返金を会社から要求されることはなかった。
コンサルタントの見解
私はクレジットカードを使用することが嫌いだ。実際にお金を使っている感覚がなく、金銭感覚を失いそうだからだ。つまり私にはクレジットカードを使用すると金銭感覚を維持する自信がない。しかも忘れた頃に銀行口座からお金が引き落とされる事にもなぜか危険を感じる。しかし妻はクレジットカードを積極的に使用している。ポイントやマイルがつくからだ。そのため私にもクレジットカードの使用を勧めてくる。ただ私にはポイントとかマイルとか目に見えないものの存在がいまいち理解できていないため、どうしても金銭感覚を維持できる方法を優先してしまう。
他にも私がクレジットカードを使用したくない理由がある。それはクレジットカードを使うと何を購入したか妻にバレてしまうからだ。下手するとどこに行っていたかさえバレてしまう。例えばバンコクへの出張。妻がクレジットカード明細を見て「バンコクに行ったの?」と突然聞いてくると、別に悪い事をしているわけでもないのに一瞬ドキっとする。
話が多少それてしまったが、とにかくクレジットカードの使用には金銭感覚を失わせる効果があるだろう。忘れた頃に「あれ?こんなに何に使ったけ?」と思ったことがある人は結構いるはずだ。このような“便利な”カードをインド人に持たせるとどうなるか想像して欲しい。誰の承認も得ず、ただPIN又は自分のサインだけで物が買え、サービスを受けることができる。あまりにも危険すぎる。
クレジットカードを持たせるのが望ましい場合もある。例えば頻繁に海外出張する場合、クレジットカードは便利である。現地通貨に換金必要もなく、海外出張後に現地通貨が余ることもない。そのような場合、少なくともクレジットカードを使用後に必ず支払内容を一件、一件経理担当者が精査し、クレジットカードを使用したインド人の上司にあたる日本人駐在員が事後承認する手続きをとる必要がある。つまりクレジットカードの使用は業務目的に限定し、経理担当者の精査、日本人駐在員の事後承認等をルール化し、ルールを破った場合の罰則も明記しておくべきである。このルール及び罰則の明確化によってクレジットカード使用に対する牽制機能が働く。定期的に親会社から内部監査を受け、クレジットカードの使用内容をチェックしてもらえれば、なお良いであろう。
残念ながら我が家にはクレジットカード使用のルールはない。妻が上記でいう“GM”で、私は“経理担当者”。クレジットカードの支出に関して、妻が「これは生活するのに必要なの!」と言えば、私には何もする術がなくなる。ビジネスで培ったノウハウが私生活ではなかなか生かしきれないのは悩ましい。