3-1-0. 現預金という“怪物”とどう付き合うか
現預金――要するに「お金」だ。
…と言うと「そんなの分かってるよ」と返されそうだが、そもそも「お金」とは一体何なのだろう?
答えは人それぞれだが、ここではシンプルにこう考えてみたい。
お金=みんなが欲しがる“怪物”。
そう、怪物。どれだけ与えても決して満足しない、人の心を掻き乱す存在だ。
想像してみてほしい。宝くじで1億円が当たったとする。
その瞬間は舞い上がるが、一晩たてば「この1億円を失ったら…」という恐怖に襲われる。もし翌年友人が3億円当てたと聞けば、きっと「1億じゃ足りない」と思い始める。結局、人はどんな時でも、どれだけでも、常にお金を欲しがり続ける。
この怪物を巡って会社に関わるあらゆる人間――従業員、仕入先、取引先、そして税務当局まで――が、それぞれの思惑を持って動く。中には、堂々とあるいはこっそりと”怪物”を奪おうと考える者もいるだろう。今いなくても近い未来に現れるかもしれない。
だからこそ企業がまず取り組むべきは現預金の徹底管理だ。金庫の現金が帳簿より1円でも合わなければ「まあいっか」では済まされない。その1円は氷山の一角かもしれないのだ。他の勘定科目なら端数処理で説明できる1円のズレも、現預金ではほぼ100%「何かおかしい」サインと考えるべきである。
では、どう守るか?
駐在員がすべての入出金を細かく確認するのは現実的ではない。だからこそ「誰に、何を任せるか」を慎重に決め、さらにその体制が適切に機能しているかを第三者の視点で定期的にチェックする必要がある。親会社や会計事務所など外部のサポートを得るのも有効だ。不正を寄せつけない“難攻不落の城”を築くには、まずここからだ。
そしてもう一つ覚えておきたいことがある。
「信頼できる人」に任せたから安心ではないということ。
今は誠実でも、不正を許す空気や甘い管理体制があれば人は変わってしまう。転職が日常茶飯事のインドならそのリスクはさらに高い。
現預金は会社の血液だ。その流れが濁れば、企業全体が病気になる。だからこそ、今日も明日も、現預金という怪物と向き合い続ける覚悟が求められるのだ。